午前三時の月あかり

亀梨和也君と日常ごと。木皿泉さんの事なども。

映画「ジョーカー・ゲーム」

2015年1月31日公開「ジョーカー・ゲーム


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原作 : 柳広司
監督 : 入江悠
脚本 : 渡辺雄介
出演 : 亀梨和也伊勢谷友介深田恭子
     小澤征悦小出恵介、渋川清彦、山本浩司 他




初日から何回か観に行きましたが、観た直後の感想は「面白かったー!突っ込みどころいっぱいあったけど、すんげー面白かった!!!」でした。


正直、脚本に期待していなかったのでびっくりしました。スピード感あふれる演出、そのテンポの良さ。けれども誰も置いてきぼりにさせない分かりやすさ。どんぴしゃりと流れる音楽のぞくぞくするようなかっこ良さ。絶対に2時間を切るようにしたかったと監督はおっしゃっていましたが、本当に途中だれる事もなく、あっという間の108分でした。


入江 「日本映画には最近なかなかないエンタテインメント作品になったなと思って。あと僕はトニースコットとかマキノ雅広監督がすごい好きで。短いんですよね、2時間を絶対超えない映画をつくるというか」

最初に観た時はアバンタイトル(という言葉を初めて知りました)でちょっと戸惑いました。原作のトーンとかなり違うので。でもそのアバンタイトルできっちりと原作との切り替えが出来ました。


この映画は、原作の、歴史の表に出てこない闇の部分を動かした頭脳戦による「静」のハラハラドキドキの諜報ものとは違う、洋画とはまた違った種類のどちらかと言えばアニメや劇画に近い「動」の派手な極楽スパイ映画なんだと。フィクションラインを把握できたというか。


結城中佐の登場シーンも劇画っぽい。背景にジャーンという文字が出てきそう(笑)。英国諜報員のキャンベルもわんさかと追いかけてくる黒スーツの男達もまるでアニメのキャラ。途中からスパイ映画というより普通のアクション映画のようになっているのも、「死ぬな殺すな」はどこへ?な部分も私は娯楽エンタメ映画として割り切れました。


原作者の柳広司さんのコメント(→公式HPより)


手に汗握るスリルとサスペンス。ワクワク、ドキドキ、ハラハラ。時折ニヤリとさせるユーモア。そして絶対絶命のピンチの後に訪れる逆転のカタルシス。娯楽エンタテインメント大作映画の醍醐味を堪能させてもらいました。


原作者がこんなことを言うのも何ですが、スパイという存在は必然的に“暗い”側面を抱えています。しかし、その暗さをそのまま作品にしたのでは多くの人に楽しんでもらえるエンタテインメントとしては成立しづらい。スパイ小説を書く上で苦労する部分です。


最初に映画化の話を頂いた時、危惧したのもまさにその点でした。「暗い映画にしないでください」、そうお願いしたのですが、全くの杞憂でした。

原作のいくつかの話を上手く組み込んだ構成。スリーパーの話(ロビンソン)は原作でも特に好きな話でした。


正直、女スパイはいらないと思いましたが、嘉藤は原作の「XX(ダブルクロス)」の元軍人のスパイ飛崎がベースとのことなので、そういう甘さや女性への情も、原作を膨らませていった結果なのかなと。深キョン可愛かったからいっか。


原作によく出てくるスパイのビジュアルは亀梨君にぴったりなんですよね。ただのイケメンじゃない闇を引きずったような美しさ。


例えば原作の1作目に出て来る三好は「生白い皮膚に、男にしてはいささか赤すぎる薄い唇。その唇の端がかすかに皮肉な形に歪んでいる」と。確か小柄なスパイも多かったような。


雑誌のインタビューより
−スピード感だけでなく、それが全て美しく映っていました。スパイとはこういうものだという様式美みたいなものも意識されましたか?


入江 「その様式美は、僕が意識するというよりも、亀梨くんから出てきたものだと思います。たぶん、そこは普段のアイドルとしての立ち居振る舞いが大きく影響していると思うんですけど、昔の日本映画の時代劇で歌舞伎役者さんが見得を切るのに似ていて、振り向いただけでピッとキマる感じとかは、やっぱり、なかなか普通の俳優さんでも難しいんじゃないかなと思いますね。そういうところは、演出をするにしても伝えるのは難しいんですけど、「暗闇のなかにスッと溶けていくような感じで」って言うと、フェイドアウトしていく感じをすぐに体現してくれましたからね」


この暗闇の中にスッと溶けていく感じというのは、リンがグラハムに襲われてるのを助けた後のシーンでしょうか。他にもありましたけど、あのシーンが私は凄く印象的でした。


夜中グラハム邸の居間に侵入した時の身のこなしも流れるような動きが綺麗でした。エレガントスパイ。


亀梨君の演技は拷問を受けた時に英語で話すシーンが凄かったです。地を這うような少ししゃがれた声。聞いた事のない声だったのでびっくりしました。あの時のイッちゃってる目もぞくぞくしました。壮絶な色気。三好につかみかかる時の「宣戦布告だ」も凄みがあって良かったなあ。


三好と言えば、原作の三好とは違いますが小出恵介君の役名も三好。出番は少しなんですけどすごく印象に残る役でした。ヘイヘイヘーイ!!(←観た人には分かる笑) いいな、あのキャラ^^


嘉藤と一緒に任務を遂行するのが、渋川清彦さんと山本浩司さんというのも、外事警察好きとしては嬉しかったです。渋川さんは俺俺の役も面白かったですよねー。


嶋田久作さんが軍服を着ると「加藤ー!」とつい叫んでしまいそうになるのは私だけでしょうか(笑)。


そして何といっても、伊勢谷友介さん演じる魔王結城中佐の存在感。軍服似合いすぎ。右腕役の小澤征悦さんと並んでいると、亀梨君の中性的な毒のある色気とは別の、大人の男の色気がすごいです。2人とも。洗練された色気に圧倒されます。柔道の訓練を見ている結城は魔王というより死神のよう。キャスティングが絶妙ですよね。目福目福^^


アクションは大掛かりな爆破アクションも迫力があっていいんですが、個人的には路地裏のアクション、まわりにあるものを使ったプロジェクトA的なアクションが好きでした。アクションはその日の朝に指示されてその場でやってみる事が多かったようですが、十分な準備期間もないままあそこまでアクションが出来るなんて、やっぱり身体能力のずば抜けて高い人だと改めて。


多くの突っ込みどころは笑いながら突っ込む事で楽しめましたが、2つだけどうしても残念だったところが。見取り図と着火の部分。


監禁部屋のすぐ横に堂々と見取り図が貼ってあるのを怪しまないのは、まあ新米スパイの嘉藤さんだからとして、それを逃げる時に剥がして持って行き、途中見ながら逃げるというのは「???」となりました。


訓練を受ける前のテスト段階でクリアしてた記憶力はどうしたの嘉藤さん。スパイの能力の根本を揺るがす問題(大げさだけど)。その軸はブレて欲しくなかったなーと。


導火線状に撒かれた火薬の途切れた部分に写真が偶然落ちてくるというのは私の中では「有」です。ただご都合主義は最後の最後にただ1回だけ使えるカードだと思うので、その前のライターでの着火はもう少し嘉藤さんが狙ってつけたようにしたら良かったのに。


投げたライターがたまたま火薬のところに落ちて着火して、途切れて、そして途切れた導火線にたまたま写真が... たまたま多すぎ^^; 偶然に重なる偶然は「なし」だなあ。


そこをもうちょっと工夫してくれたら、後は、思惑通り火薬に火をつけたけどトラブルがあって火が途切れた、そこへ運良く写真が落ちてきた。運が味方するのはアクション映画につきものじゃなーい、と言えたのに。その2つだけが残念でした。


スピード感溢れる演出が際立ってますが、要所要所のいわゆる伏線はとても分かりやすい。子供から大人まで同じ場面で「ああ、あそこがここで」とすぐ繋がる。


最初からバラしてる盗聴器に、耐火シーツをあそこで干してたとか、割った瓶とそれを踏んだ靴音を大きめに入れてるとか、親切すぎる防弾防刃ベストの映し方とか、サブリミナル効果のように残る落としたライターの映像とか。


最初の訓練での「敵に捕らえられた時にどうするか」という答えが後々実戦で出て来る。問われた時に間違えた嘉藤が教えを正しく実践し、結城が言った「死は最悪の選択だ」を嘉藤が引き継いでつぶやく。分かりやすい。


監督は子供の頃に映画を観た時の興奮を今の子供達にも同じように味わって欲しかったのかな。そしてアクションに疎い女性にも等しく。なんて想像したり。亀梨君が言っていた「性別、年齢問わず楽しめる映画」とはそういう意味かと。


そしてきっとどの年代の人も思った最後の「これルパンじゃん!」という突っ込みまで含めて。最後遊びすぎですよね監督(笑)。


その突っ込みに応えるように流れるテーマ曲のあの爽快感、高揚感、最後はやっぱり持っていく魔王結城の計算高さ。


スカッとして気持ちのいいラスト。映画は1人で観るのが好きな私ですが、観終わった後「面白かったね!」と言い合う相手がいない事を久しぶりに寂しく思った映画でした。